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1.発達障害関連 4感想(本・映画・音楽など)

No.86(感想:本)ケーキの切れない非行少年たち

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ケーキが切れない=発達障害?

この本は発達障害の方が読んで役に立つ本だと思うので紹介します。著者は児童精神科医であり少年院勤務経験者であり、非行少年に共通する認知機能に関する問題に着目します。この問題の1つにケーキを3等分に切る(下図の黒)ことができない(下図の赤)というものです。

 

 

 

 

 

 

 

上記は図形の認知が不十分なケースですが、これ以外にも「人を一定以上強く叩いたら相手が怒ったりケガする」「その結果自分が刑罰に処される」という論理的な認知も弱い人もいるのですが、こういった「非行に走る以前の問題がある少年少女たち」が教育や司法の現場で適切に教育・指導を受けていないため、自身の問題に対処する訓練も再発を防ぐためのプログラムを受けるような更生もされないまま少年院を出所することになります。そして同じ過ちや犯罪を犯してしまい、再度少年院に入るという負のスパイラルに陥っているという問題を提起した内容です。

もう少し詳しく解説します。筆者の協調する問題は以下の3つです。

1.境界知能IQ70超-85以下:軽度知的障害と診断されるレベル

子供たちの困り事が教育や司法の場で放置されている。または専門的にケアされていない。IQ70未満の知的障害は全児童生徒の2%ですが、境界知能と言われるIQ70超-85以下の子は14%いると言われています。確率は1/7、35人学級で言えば5人はいるレベル。この子たちは勉強や社会生活上の困難を抱える事が多く、非行少年の予備軍になっています。
→教育現場では「褒めて伸ばす」事が良しとされているが、そもそも脳の認知機能の弱さが原因である①学習障害(読み書きや図形認識に問題がる)や②社会スキル嫌なことを断る、困った時に助けを求める、怒りをこらえる等)に問題がある子をいくら褒めても、根本的な解決にならないし、困り事は消えないのです。
→少年鑑別所は「非行の理由や問題点を明らかにする」ところですが、「自尊感情が低いので上げるような支援が必要」(自尊感情が低いのは結果であって他に原因があるのに)という曖昧な言葉で指針の提示をしてしまいがちであると著者は指摘しています。(本が出版された2019年当時。今では多少変わっているかもしれませんが)
医療現場では学習障害や社会スキルの欠如は治療対象ですらないので、二次障害(鬱や不安障害など)を発症しない限り何も手を打てません。(発達障害の診断を受けて療育機関につながれば別ですが)

2.認知のゆがみ

聞く力が弱い→先生や友達が何を話しているか分からず話についていけない。(例:授業のポイントを聞き漏らして理解が不十分)
見る力が弱い→相手の表情やしぐさが読めず 不適切な発言や行動をしてしまう。(例:悲しんでいる人に冗談を言ってしまう)
論理力が弱い→自分の考えを伝えるための理由をうまく説明できない。(例:怒るべきときに言葉で説明できないため手が出る)
予測力が弱い→自分の行った事が周囲にどう評価されるか見通しが立てられない又は甘い(例:万引きや暴力を軽い気持ちで行う)
身体協調運動が弱い→力の加減ができず運動や音楽が苦手。手先が不器用。友達とふざけるときに力の加減ができずにけがをさせてしまう。

3.画一的な教育

知的障害や発達障害(ADHD/ASD/LD)は生まれつきの脳機能の問題のため、診断が付いたとしても病理的要因はないため根本的な治療はできないのです。さらにIQが70-85の境界知能の子たちは「軽度知的障害です」と判断されて、一部は特別支援級や特別支援学校で障害による困難を克服するための指導や配慮を受けられるものの、大半は通常学級で過ごすことになります。
通常学級では「標準的な人間」を作り上げることを目標にしてカリキュラムが組まれているため、勉強や運動の得意不得意の差が少ない定型発達の子はそれほど困難はないものの、境界知能の子たちは「計算」「読み書き」「運動」など苦手分野があるため授業に付いていけなくなってしまうのです。さらに社会スキルの指導は教育カリキュラムにすら含まれていないので、学校以外の特別なケア、例えば療育機関等の福祉支援でも施さない限り、ほぼ何の手立てもないのです。(2019年当時の話。今後インクルーシブ教育が導入されて、こういう子たちへのフォローが厚くなるかもしれませんが)

と、ここまで大分批判的かつ悲観的な見方で論じていますが、最後にこういう問題への対応についても著者は考えています。

対応は3段階

1.自己への気付き

著者は「適切な自己評価」(自分の不適切な考え方に自ら気付く)が第一歩だと述べています。具体的には「悪いことをしている自分」に気付き、「いつまでもこの状態でいたら私の人生がまずいことになる」といった内省をさせ、自分の中に「正しい規範」を作らせることで理想の自分に近づこうとさせるものです。例えば万引きをした少年に、万引きをしている現場の映像や、自分が万引きした姿を他人がどう思うかをイメージさせ、「万引きは悪いことだ」と気付いてもらう内容です。万引きをしない大多数の人からすれば当たり前の事かもしれませんが、認知のゆがみのある人にとっては「自分自身がおかしい」と気づく事こそが大事なのです。

2.適切な教育と体験

社会面、認知面、身体面の3つからのアプローチが必要と考えています。
この本ではコグトレというシステムで「感情のペットボトル」(空のペットボトルを数本用意して、悲しい、怒り、苦しい、といった感情を書いたラベルを張り、その分だけ水を入れて自分の感情を把握する)など興味深い内容が書かれています。(詳細は本でどうぞ)

3.自己評価を上げる

1.2.を通じて境界知能の子たちが「人から頼りにされたい」「人から認められたい」「人に教えたい」という体験ができて、結果として自己評価が上がるというのが筆者の考えです。このような取り組みがさらに広がり、支援が必要な子供たちにも届くようになってほしいものです。
もっと欲を言えば、この著者は全体を通して、精神科医や医療少年院勤務など観察・管理する側の視点で「ケーキを切れない非行少年たち(=非行以前から認知の問題を持つ人たち)が人生を踏み外さないために」という警告寄りの主張をしていますが、読んだ当事者が前向きに生きたくなるような本もあれば読んでみたいです。(元非行少年が更生するまでをつづった体験談みたいな

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