リップヴァンウィンクルの花嫁を観たので思うところを書きます。ネタばれ含みます。
点数を付けると7/10です。幸薄ポイントと主演の黒木華のキャラが絶妙にマッチした邦画です。3時間の長編なので時間の余裕のある時にご覧いただければ。そしてかなり長めの記事でもあります。5分くらいはかかるかもです。
登場人物
・ナナミ(黒木華)自分に自信がなく決断できない。情にもろい幸薄キャラ。
・アムロ(綾野剛)如才なく状況判断が素早い何でも屋。情に厚そうに見せる腹黒非情キャラ。
・マシロ(COCCO)意地とプライドを支えに生きるAV女優。心を閉ざした寂しがり屋キャラ。
ほぼこの三人で展開されます。うちナナミとアムロは最初から。マシロは中盤から登場します。
アムロは非常勤講師をやっていますが、生徒には「声が小さくて聞こえません」と舐められ、机の上にマイクを置かれる始末。学校側から評価されず更新を拒否され、逃げるようにネットで出会った彼氏との結婚を決意します。ナナミはネットで出会った彼氏と結婚することを決意します。
披露宴に呼ぶ友人や同僚が少ない事を彼氏に指摘されたナナミはネットで見つけたアムロの「代理出席サービス」を利用します。そこがアムロとの接点の始まり。アムロは友人が少ないことを反論できない事がこの後の展開以降ずっと続いていくんですね。
第一の幸薄ポイント「ナナミの性格」
ナナミはどういう人生を歩んできたかは描写されていません。両親が離婚、友人が少ない等もありますが、大体こんな所に幸薄感を感じます。
・声が小さいと生徒にマイクを置かれて反論できない
・一次関数って何に使うんですか?の問いに自分なりの答えを言えない
・「友人2人じゃ披露宴の体裁が立たない」と言われ迷わず代行サービスを決断する。
・講師をクビになったことを結婚直前まで彼氏に告げない。
・マザコン気味の彼氏に何も言わない。
見てて「大丈夫かな?」って思うくらい事なかれ主義なんですよね。そしてそういう性格を最後まで変えることなくそのまま受け止めてしまう主人公の性格を変える事無くドラマを展開させるのが監督の岩井俊二氏のテクニックですよね。(確かに最初は泣き虫なのに最後は強いハートに変わっていく主人公ってあまり現実感ないのでこれは素晴らしい筋書きです)
そして結婚自体は無事終わるのですが、幸薄人生はここで終わりません。すぐに離婚するのです。しかもそこにもナナミの決断できない性格とアムロの腹黒さが関わってくるのです。
序盤の結婚部分の幸薄
結婚して幸せになるはずだったはずなのに・・・マザコンの義母がこっそり旦那に会っていて、部屋に落としたイヤリングを旦那の浮気相手と疑うナナミ。これをアムロに相談してしまうんですね。浮気調査を依頼されると同時に、義母の仕掛けた別れさせ屋と組んで逆にナナミの浮気工作に加担するのです。(そこはナナミに隠してずっとナナミにいい人を演ずるのがまた腹黒・・・)
で、法事で旦那の実家に行ったときに義母に「アンタ浮気しているでしょ?」と問い詰められ「浮気しているのは旦那の方です」と反論するナナミ。しかし義母にでっち上げられたナナミの浮気映像を突き付けられ、万事休す。旦那からの電話にも満足な説明を諦めて家を出てしまうのです。(離婚シーンはないけどこれで旦那とは終わり)
両親が離婚しており、行く当てもなく仮宿として泊まったビジネスホテルでシーツ交換のバイトやアムロに紹介された結婚式代理出席サービスのキャストをして食いつなごうとします。ここで出会ったのがマシロです。
マシロがなぜこの代理出席サービスをしていたかは知りませんが、このバイト後の飲み会で意気投合したナナミとマシロはこれから深い付き合いを始めます。
マシロで少し幸が復活
さてさてビジネスホテルで暮らし働くナナミにまたしてもアムロが接近。(ちなみにアムロのSNSスタンプのアムロ行きまーすは少しウケた)大富豪の別荘でマシロと二人で住み込みのメイド生活を始めます。この別荘でのメイド生活というのがお花畑感満載なのですが、とりあえず仕事をするのはナナミ、マシロは寝て飲むだけで何もしない感じで二人の生活が始まります。
そしてあるとき体調を崩して寝込むマシロ。マネージャーが家に来て病院に連れて行こうとします。しかし移動中の車でマシロは病院を拒否。現場に行かせて、と無理やり車を降りてしまいます。ここでマネージャーから初めてマシロの女優がAV女優であること、そして豪勢な別荘の賃料はマシロが払っていて、この仕事の雇い主もマシロであることをナナミはマネージャーやアムロ経由で知ることになるのです。
そしてナナミはこれを機にマシロとの関係を急激に深めます。二人でウェディングドレスを着て写真を撮ったりそのままドライブしたり。ある時ナナミはメイドはもうやめる、マシロにもっと安い家でAVスケジュールを無理に入れなくても生活できることを提案します。マシロはナナミの思いやりに「簡単に幸せが手に入ると私壊れるから・・・」繊細な反応を見せます。これがこの映画のもう1つの幸薄ポイントである「幸せのハードルの低さ」です。
第二の幸薄ポイント「幸せのハードルの低さ」
普通、幸せのハードルが低いということは「ありがとう」「今日は天気が良い」等のちょっとしたことに幸せを感じられるのでポジティブな表現と思われる方が多いのではないでしょうか?でもAV女優を選び身も心も削ってきたマシロにとっては幸せをそのまま受け止める心の素直さがなくなっていたので「お金払って買うのが楽」という考えになるんですよね。
これわかる~って人いませんか?私は思い切り共感しました・・・心の素直さって失うと急には戻らなくなるんですよね。健康と同じでひょっとすると完全には戻らないものなのかもしれません。というのもこの晩、マシロは自殺するのです(´;ω;`) ナナミの優しさにこれ以上ない幸せを感じてしまったマシロは死という対価を払って人生のピリオドを打ったのでしょうね。
そして自殺した翌朝にアムロが到着します。そしてそこにはなぜか葬儀屋スタッフも待っていました。なぜこんなに首尾がいいのか?実はこういう筋書きがマシロにはあったのです。
1.マシロは末期がんに侵されており余命がいくばくもないことを知っていた。
2.寂しがり屋のマシロは一緒に死ぬ人が欲しくなりアムロに依頼した。
3.アムロはナナミに雇い主はマシロだと告げたが心中相手であることは伏せた。(まあ当然ちゃ当然ですが)
さて、別荘に入ったアムロと葬儀屋はベッドで横たわる二人を発見。葬儀屋は冷たくなったマシロを見てアムロに「こういう依頼っていくらで受けるんですか?」と質問。アムロは「1千万円」と答える。
と、ここで心中したと思ったナナミが目を覚ますのです。そう、アムロはナナミを道連れにはせず一人で死んだのです。そしてナナミはおめでたくも二人の会話を聞いていない…
そして葬儀が終わり、アムロとナナミでマシロの遺骨を母親に渡し、ナナミは新たな生活を始めるために引っ越すところで物語はラストを迎えます。(本当は遺骨を渡すシーンでももうひと盛り上がりあるのですが、書くのに限界を感じてきたのでこの辺で…)
あとがき
最後はナナミが前向きに人生をリスタートさせようというシーンで終わるので良き映画かなって思うのですが、最後までアムロを疑わないナナミの能天気感が消えなかったので、この後のナナミがどういう人生観を持ったのかが気になりました。
あとアムロってどういう人間だったのかな?だってマシロの死体の横で「一千万円」って答えた時は「やれやれこれで一仕事終わったぜ」的な感じだったはずでしたから。ナナミをはじめ色んな客の前で見せる清々しい笑顔は表の顔のはずなんですよね。もう少し別の形でブラック感を見せてほしかった気もします。
ちなみにタイトルの「リップヴァンウィンクルの花嫁」のリップヴァンウィンクルとは「時代遅れ」という意味があり、マシロのSNSのハンドルネームでもあります。色々考えられた作品で思わずレビュー書いちゃいました。