以前「メタ認知」という記事で紹介したのですが、私たちは普段自分が見たいものを見ることでこの世界を認識しています。発達障害ともなると見える世界がまた独特です。そしてこれは独特の感覚の過敏さによるものが大きいです。ここで感覚過敏について国立障害者リハビリテーションセンターのアンケートがあるので見てみましょう。
聴覚がトップで次いで視覚、その後触覚や嗅覚が続きます。具体的な内容は以下のとおりです。
聴覚過敏
1.音の高低や音量
• 大きな声、音、特にキンキンした高い音(子供の声や、ドラマなどで女性が叫ぶ声など)や和太鼓などが苦手。
• 赤ちゃんの泣き声や、幼児がぐずっている声、発作的な荒々しい呼吸、電化製品の電子音に混乱する。
• 換気扇の音が気になる。人の話す声に注意を向けることが難しく、言葉を正しく認識出来ないことがある。
• 聞こえすぎる。小さな音が気になる。突然の大音量は苦手。
2.同時に入る多くの音(情報)
• 遠近関係なく同じ大きさで聞こえるので、音の方向が特定できない。
• 周囲の音が邪魔で目の前の人の話し声や電話の声が聞き取れない。
• 多数の人が同時に話す内容を判別できない。
対応策
「1.音の高低や音量」については、物理的な遮断(ヘッドホン、耳栓など)が多いです。(ただし触覚過敏もあると長時間の対応は困難そうです)一方、「2.同時に入る多くの音(情報)」については「静かな場所に移動して尋ねる」「周囲に予め聞き取りづらいことを伝える」など環境調整的な対応の他、音声を録音して聞き直す、文字起こしをする、等の対応があります。
視覚過敏
1.光や色の度合い
•日光が弦しくて、前を向いて歩けない。
• 蛍光灯の光の点滅で教室や図書館などで勉強するのが苦痛。
• 勉強のときに白い紙に黒い文字を書くとまぶしく見える。
• LEDライトや太陽光で目が開けられない
• 原色、蛍光色のペンやマーカーの色が苦手。
2.情報の判別
• 視界に入る物や人の情報が同時に目に入るので、人込みや散らかった部屋が苦手。
• 集中して多くの文字や映像を得た後に集中力が切れやすかったり疲労感が溜まる。
• 文章を読む時、意味のある文節として捉えることが困難または時間がかかり疲れる。
• 見落とし防止のチェックリスト作っても、リスト自体を読み飛ばし確認ができない。
対応策
「1.光や色の度合い」について上記のとおり物理的な対応が可能ですが、これも触覚過敏もあると長時間の対応は困難そうです。「2.情報の判別」については、「文章を読み聞かせてもらったり、静かな環境で心を落ち着けて読む」「明朝体はゴシック体に変換」「画面を白黒反転させる」などこちらも環境調整的な対応になります。
触覚過敏
• 襟や服の裏のタグがチクチクする。 服の縫い目がこすれて痛い。化繊の肌触りがかゆい。
• 手首が締まるシャツや首を覆うタートルネックが嫌い。
• 制服の一番上のボタンを留められない。体操着の首周りを引っ張りヨレヨレにさせる。
• 太ももやふくらはぎを締め付けるスパッツやズボンの感触が気持ち悪い。
• 首や脇腹をくすぐられたり、手をつなぐ等の身体接触時の人肌の温度感が不快。
• 唱吐反射が起きやすいので、歯医者でえづく。
• 水泳のゴーグルや帽子着用で頭痛がする。水の感覚も嫌いで髪を洗うのも好きではない。
対応策
触覚の問題は物理的な対応方法で概ね解決できますが、人間関係的な部分は相手に丁寧に事情を説明するのがスマートな付き合いにつながると思います。
あと環境調整で難しいのは学校のように自分以外の人と交流する人の中では、常に自分の望む対応を選べるわけではないことです。自分にとっての「非日常」は世間一般では「当たり前」な事が多く、我慢して皆に合わせることで発達障害の人は壁に直面します。特にASD傾向の強い人だと周囲への配慮より自分の困難さの主張が勝ってしまうので「自分勝手」とみなされ対応をされないままになることあります。
発達障害の困難さを物理的な手段だけですべて克服するには限界があります。周囲に自分のことを理解したりサポートしてくれたりする人を増やし環境調整で対応することも大切です。学校や職場の上司に相談し協力を求めてみましょう。そのために医師の診断内容や治療方針も説明した上で、生活上の苦手な部分をサポートしてもらうと良いと思います。自分が少数派だから、その世界で流されて生きていくしかない、なんて思う必要はないのです。
お子さんの感覚過敏
この音はいや、このにおいがダメ、この感触ががまんできない、感覚過敏はお子さんにも多いです。刺激の受け止めかたによってはかなり激しく抵抗を示すことがあるため、保育の中でも対応に悩む場面が出てくると思います。まず、何か不快な様子が見られたら、「この子は何をいやがっているのだろう?」と考えてみることが大切です。
耳をふさいだら、「金属がこすれる音がいやなのかな?」
お昼前になるとくさいと言う子には、「給食のにおいが苦手なのかな?」
など、その子の様子から刺激の原因を想像していきます。
洋服のタグの感触を嫌がる子はお子さんは多く「チクチクする」とか「ここが気になる」と言う子の場合はすぐにわかるのですが、言葉でうまく伝えられない子の場合は場合はその子の表情や仕草で「もしかしてまだタグを取っていないのかもしれない」等、不快の原因を探ります。
そして、原因がわかったら、可能な限り不快の原因を取り去る方向で考えましょう。どうしても無理な場合は、その子の好きなもの、好きな遊びやゲームで気分転換を図ったり、いったん刺激から遠ざかったりということでもいいと思います。
偏食への対応
触覚の過敏さが原因で偏食が見られることもあります。口の中が敏感なため、ある食べ物の触感を嫌がったり、冷たい、熱いということに異常にこだわったりすることがあります。味覚に対して敏感だと、「〇〇のみそ汁でないと飲まない」というように、食品メーカーにまでこだわってしまう子もいます。
また、見慣れないものに抵抗を示すことから、決まったものしか食べられなくなってしまうということもあります。おかずにはまったく手を出さず、白飯しか食べないという子もいます。偏食の原因が感覚過敏でも、新しいものへの抵抗であったにしても、かなりの偏りがある場合は、成長・発達面においても心配になり、何とか食べられる物を増やしていきたくなるものです。
しかし、家庭での指導を無理に求めると親子共々ストレスをためる事になるにもなりかねません。お子さんの食の幅を広げたいと思ったとき、周りの友だちや保育者のおいしそうに食べているようすを見せて興味を持たせたり、少しずつに分けて「どっちを食べる?」と選ばせたりする、といった方法を行っている保育者も多いと思います。多くの子はそれで少しずつ食べられるようになってきますし、また、食べてみたらおいしかったという経験によって、いきなり好きなものに変わってしまうこともあります。
ただ基本発達障害のある子の偏食の改善はなかなかうまくいきません。ただ関わり方の基本はスプーンのちょっと先だけとか、ほんのひと口から始めるなど、段階をより細かくし、スモールステップで行っていきましょう。焦らず、無理強いをせず、が最終的な成功につながります。