親が発達障害当事者の場合、その人なりに努力と工夫をこらしながら子育てをされていますが、一般的な家庭では当たり前のことが当たり前にできないことがあります。今回は育児の基本の褒め方と叱り方について書いてみたいと思います。
セルフエスティーム
発達障害のある親御さんはお子さんも発達障害であることが多いのが現実。そこで「セルフエスティーム」が分かっていると発達特性を前向きに捉えるのに役立つなと思いました。
セルフエスティームとは「自己評価」「自尊感情」のように訳されます。この概念が弱い子を叱ってしまうと、お子さんは「自分はダメなんだ」と思い込みがちになり、二次障害も発生しやすくなり、放置し過ぎると。追い込むことになり、自殺、非行、犯罪に至ることもあるといいます。
逆にこの概念が強い子だと「自分を大切にしよう」と思う気持ちが高まり、何か悪いことがあっても物事には好循環と悪循環があり、その中から自分にとって前向きな考え方に変える力も育ちやすいです。
褒めて育てるのが大事
セルフエスティームの強い子を育てるには基本的に褒めるスタンスが大事です。時には「叱る」というのも子育てには大事な事ですが、発達障害のある子だと、「褒められる=次のやる気の元」になり、「叱られる=自信や希望の喪失」につながりがちです。
まず褒めるについてですが皆さんもご自身の事を思い出せば分かる通り、人間褒められると相手に対する信頼関係が深まり、自己イメージも高まります。未来への希望も得られやすく、人から受けるアドバイスや批判も前向きに聞き入れる態度も出てきて自分にとって好ましい行動が増えていきます。逆に叱るが基本になると、自信が失われ本来できることまで失敗しやすくなり、それが「次の叱られ」につながりやすくなります。
では「叱られ癖」の付いたお子さんの悪循環を好循環に変えるにはどうしたらよいのでしょうか。これは問題行動はある程度目をつぶり「好ましい行動を見つけて褒める」事に注力するのです。褒められれば誰でも「自分ってすごい(できる)」と思えるようになります。次の行動にも自信ややる気が出て努力するという好循環を作れるセルフエスティームの強い子に変化していくのです。これまで叱られる事が多かった子の場合、不安感の深さによっては、褒めても簡単に自信が出ない場合もありますが、根気よく続けると少しずつ効果は出ます。
効果的な褒め方叱り方
褒めるときはみんなの前で。これをやるだけで子どもの反応は違ってきます。社会の評価というのは他人が決めるものです。人前で褒められると自分はその集団内で認められたんだという意識を持つのでセルフエスティームが高まります。それだけ他者から受け入れられているという実感が大切です。
逆に叱るときは必ず人目に触れないように1対1で行うこと。その際には人格を否定しない。悪いのは人ではなく行動だという点に注意するべきです。その子の今後を考えて言ったつもりでも、子供という生き物は叱られると「相手から嫌われている」と思ってしまいがちです。この辺が叱る難しさなのですが、悪いのは「行動」であり、その子自身ではありません。それをはっきりさせるためにも「あなたはダメね」など、人格をさげすむようなことばは禁句です。
叱る指示は具体的に短くが大事。発達障害のある子は自分が悪いことをしていると気づかないことが多々あります。好ましくない行動は感情的にならず、端的に伝えましょう。指示も「お友だちと仲よくね」という曖昧なものではなく、「お友だちをぶたないようにしようね」と具体的で分かりやすい内容が良いです。
定型発達の子は「顔つき」や「身振り手振り」等の仕草といったボディーランゲージでコミュニケーションを取れます。ADHDの子もある程度できます。ASDの子の場合他者への関心が弱くそれをうまく受け取れない傾向があります。なので少し大げさに「ほんとうは好きなんだよ。だけど、こういうことをしてしまうのは悲しいね」という感情を入れたメッセージを入れることが大切です。
時には自分の手から離す
最後に発達障害当事者のオープンチャット「ADHDのライフハック」で寄せられた相談から気づいたことを書いていきたいと思います。
あるお母さんには小学生のお子さんがいて、お家が子供の友達のたまり場になっていたそうです。家に遊びに来るのはいいのですが、まるで我が家のように入ってきたり、トイレを借りに来たり、家の布団で爆睡したり・・・
お子さんが無条件に友達を受け入れてしまうのでツケはすべて母親に回る、母親が子供の友達の相手をせざるを得なくなり、友達を大事にするところは褒めながらも「でも連れてくるのは週2回にしようね」注意しても強く言えないお子さんの性格のせいで中々改善されない。もう自分は考えるだけでも疲れてしまう。どうしたものか?というのが主な内容でした。
日ごろのうっかりや不注意で自分の事だけでも気を揉むのに、子供の友達やその親の対応まで考えると心の余裕がなくなってイラついたり不安な気持ちが高まるというケースが多いものです。その方はどうやって解決したのか?最初は勝手に子供の友達が入ってこないようにカギを閉めたり、都度注意するということを考えたようなのですが、どうも決定的な解決策にはならず、結局放課後デイサービス(学童のような児童を一定の時間まで預かるサービス)を利用することにしたそうです。
私はこれは良い手だと思いました。発達障害があると脳の疲労度合いが人より早いことから疲労が増える子供への注意はなるべく避けるのが吉です。自ら対処するのではなく「他人に預けて自分の管理から外す」ことが大事なんです。こうすることで自分のキャパを確保しすべき家事や自分の仕事・作業に集中する。こういう対処法を私もしていきたいと感じました。
発達特性のある親でASD傾向が強い人だと、
・子供の友達が遊びに来ることを極端に嫌う
・家族ぐるみで他の家族と一緒にご飯を食べに行くのがストレスだ
といった事で無理に参加して心労が溜まって日常生活に支障が出るといったお話も聞きます。TVのホームドラマにでてくるご近所付き合いやママ友と仲良くお茶するようなシーンはドラマ上の設定であり、定型発達の親御さんも含めて皆が同じようにうまくできるわけではないんですよね。
というわけでお子さんのいる発達障害者の事で相談できる場所をご紹介します。オープンチャット「ADHDの生き方相談」https://line.me/ti/g2/HmN9dagNiN4BHyDk41LdE1qfnag6zSLqKVlo7Q?utm_source=invitation&utm_medium=link_copy&utm_campaign=default
その他これまでに出ていたお母さん当事者の子育てに関するお悩みの話と解決の方向性をまとめました。ご参考までに。
No | 悩み事 | 解決の方向性 |
1 | 子どもと一緒にいてイライラする | 親だって1人の人間です。どんなに可愛い我が子でも(特に専業主婦なら)ずっと一緒にいれば機嫌の悪い日もあれば、疲れたり、精神的に落ちる日だってあります。子供も同じです。つまり毎日万全の状態なんてドラマの世界です。 |
2 | 家事育児に達成感がない | 学校や会社と違うのは、周囲の評価がないことです。頑張っても家の中では子どもしかいないし、子どもが褒めてくれる訳でもないし。そもそも家事や育児というのは「ここまで」っていうゴールがないのです。諦めましょう。 |
3 | 家で抱えるモヤモヤをどうすればいいの? | 身内と話しましょう。まずは夫。夫が「俺も疲れているんだ」なんて言おうものなら24時間家事育児をする妻のストレスを思い切り語ってあげましょう。夫がいない場合は親しい友人に。それもいなければライフハックオプチャでちょっとくらいグチっても構いません。気持ちの分かる仲間は多いです。 |
4 | その夫が家では何もしない。ストレス原因なんだけど… | 何をしてほしいか具体的に伝えましょう。「言わなくたってやるもんでしょ?」という考えは主婦の大変さが分からない夫には理解できません。「子供の服を脱がせてお風呂に入れて」「タンスからパンツとシャツとズボンを出して着せて」など具体的なミッションを受けた方が規律で動く男は対応しやすいものなのです。あと男に完成度の高さを期待するのは諦めましょう。やってくれさえすれば良しの慈悲の心で見守りましょう。主婦のあなたとはレベルが違うのです。下手でも褒めればどんどん動くのが男です。 |
5 | 怒らないように叱ってるけどやっぱり子どもが言う事聞かない | 叱らずに誉めて育てましょう、とは言いません。ただ「叱ったら言うことを聞くのか?」を考えてみましょう。悪ふざけは叱るのもいいでしょう。でも本人がやろうとしてできない事や性格的にできない事を叱っても効果は期待できません。あと叱るときは子どもに言い分を与えましょう「どうしたの?」と言うだけで子どもは自分の行動や気持ちに気づけるようになります。 |
子どもへの声かけ
1 | 褒める/叱る | 子どもの具体的な行為を見つけて指摘。同じ行動をとる(次回から反省する)ようになる。 褒める例△→「よくやった」〇→「~ちゃんを手伝ってあげたのはよかった」 叱る例「大声で叫ぶと周囲に迷惑だろ」 〇→「大声で叫ぶのを家までがまんできなかったのが残念だった」 |
2 | 褒めるとき | ①今までできなかった事ができた≧②誰かの役に立った≧③良い行いをした |
3 | 叱るとき | ①人の心を傷つけた≧②人に危険が及んだ≧③やるべき事をしなかった |
留意点(大人にも共通する)
褒めるとき5つ
スモールステップで褒める | 小さな点をたくさん褒める。自己肯定感の向上に直結 |
本気で褒める | 口先のウソは子どもほど敏感に見抜く。親が喜べないなら褒めない。 |
ご褒美を与えない | 褒められる行為をご褒美との比較で判断するようになる |
スキンシップ | 触れ合い大事。ハグは無理でもハイタッチくらいはできるはず。 |
できれば性格で褒める | 行為は義務感の可能性もある。性格を褒めてこそ喜ばれる。 |
叱るとき5つ
行為だけ叱る | 人間性を叱れば人格を否定されたと感じ自己肯定感が下がるだけ。 |
その場で叱る | 時間が立てば行為の臨場感も下がる。鉄は熱いうちに打つ。 |
失敗を叱らない | チャレンジ精神は褒めるべき。結果が出ないならむしろ見守る。 |
人や数字と比べない | 劣等感を感じ自己肯定感が下がる。順位や偏差値も同じこと。 |
親の気分で叱らない | 叱るのが親のイライラや不安を伴ってはいけない。冷静に一貫性を持つべし。 |
年齢別の接し方
年齢層 | ポイント |
保育園・幼稚園まで | 叱る前に理由を聞いてやってはいけない事を教える。(ある程度のわがままは許す) |
保育園・幼稚園 | わがまま以外を敢えてしからない。(準備不足や礼儀作法はまだ早い。個性を尊重) |
小学校入学時 | 自分の事は自分でやらせ行動に責任を持たせる。(安易に人のせいにさせないため) |