私は発達障害特性のある人の仕事への向き合い方って3段階あると思っていて、
1.発達障害であることを自覚する
2.薬や診察で仕事上の弱みの対応を取る
3.自分の強みを自覚して自己肯定感を高める
という手順を踏めば楽しく、もしくは充実した気持ちで働けるだろうと思っています。実際は2次障害や人間関係トラブルなど様々な問題を克服しなきゃいけない人も多いのですが。今回はASDに絞った就労の問題について書きます。
発達障害者の中には、不注意・多動・衝動性で定義されるADHD、対人関係およびコミュニケーションが苦手で独特のこだわりを持つASD、読み・書き・計算が不得手なLD、が挙げられますが、中でもASDの人はADHDやLD以上に多くの困難を抱えている人が多いそうです。ASD者の中には高学歴でIQも高く、高難度の資格保持者や作業をこなすスキルはあるのに、コミュニケーションに困難性を抱えているため就労でつまずきやすいそうです。就職前後のフォローも、一般的な職業訓練やリハビリでは限界があるので、ASDに特化した職業訓練やリハビリサービスが必要と言われています。
まず各発達障害者の就労上の問題について解説します。
SLD(学習障害)*LDとも言う
読み・書き・計算の苦手なLD者の場合は、知的障害者とは異なり知的な遅れはなくとも、日常会話は問題なくできても、アルファベットの小文字の「p」と「q」と「b」と「d」のような鏡文字が区別できず文章が読めない、簡単な足し算ができないなどの困りごとがあります。こういう方たちは通常の小・中・高校を卒業しているため、就職した企業の同僚や上司からは、読み・書き・計算はできると思われてしまいます。なのでLDが発覚すると職場の中で仕事ができないといわれ、居づらくなって離職というパターンがあると言われています。こういう方たちの対応として、パソコンを使った作業(①キーボード入力で書く困難を軽減、②表計算ソフトを使って計算の困難を軽減、③音声読み上げソフトを使って読む困難を軽減)という配慮方法があるので今後パソコン導入や作業のデジタル化が進めば、障害の困難さが軽減することが期待されています。
ADHD(注意欠如多動症)
ADHD者の場合は多動や衝動性もありますが、最大の問題は不注意です。短期記憶(ワーキングメモリ)の弱さから、しなければならないこ
とを忘れてしまう、不注意からミスを生じてしまう点が「締め切りに間に合わない」「重要な指示を忘れた」「間違えてはいけない入力を誤った」という問題になるのです。これへの対処は「リマインダーを使う(アプリや人)」「ダブルチェック体制で完成前にミスを見つけてもらう」「パソコンの自動作業(Excelのマクロなど)で一括処理」というチェック体制・処理の自動化を取ることが大事と言われています。
ASD(自閉スペクトラム症)
困難さの複雑性
LDやADHDに比べ、最も困難さへの対応が複雑なのはASDでと言われています。ASD者の中には高学歴でパソコンや機械の操作などに長けている方も多いのですが、本質的に他人に関心を持てないASD者は
①就活時に面接官の意図と異なる回答をしてしまう
②就職後に同僚・上司・取引先との人間関係でつまずく
ために仕事の内容以前に就職できない、職場になじめずに就労できない人が多いそうです。
ASD者へのコミュニケーションの改善は「こうすれば上手くいく」という万能の策はなく、就労支援機関でじっくり面接を行い、ASDの会話でありがちな「一方的にしゃべり続ける」「自己理解ができていない(客観的な自己評価をしにくい)」を理解しつつ、本人もうまく説明できない困りごとを把握しなければいけない、という複雑さがあるのです。
特にIQが高く語彙が豊富な高機能自閉症者の場合、一般的な傾聴的カウンセリングが通用せず、「何が本人の主張したい論点が分からない」「本人が希望する仕事が客観的に妥当かどうかが分からない」とカウンセラー泣かせなケースも多いのだそうです。結局カウンセラーが傾聴しているだけではASD本人の自己理解が進まず「職業適性を踏まえたジョブマッチングや合理的配慮の指導ができない」という事態になるのだそうです。
職場側の配慮事項
ただし、ASD特性を配慮した「職場側」の配慮事項は体系ができつつあります。ハード面(作業スキル:定型的)とソフト面(対人スキル:非定形的)に分けると以下のようになります。
1.ハード面
・静かな作業場への配置,騒音をさえぎるためのヘッドフォンの使用
・職務や手順に関する(口頭ではない)書面での指示
・優先順位や作業進捗を確認するための定期的な確認時間の設定
・定期的な(またはストレスを感じた時の)休憩許可の指導
・マナーやルールの指導(感情が高ぶった時は口頭以外にEメール可などの決め事)
2.ソフト面
・仕事以外の付き合い(飲み会など)の参加困難性の理解
・定期的な産業医面談の設定(困りごとやストレスを専門家視点で確認)
・柔軟な勤務形態変更対応(本人のこだわりや精神状態を重視した始業・就業時間の設定など)
・人への関心が少なくて済む職制(技術職など)への転換
ASD者への指導事項
チームワークとコミュニケーションの指導として以下が一般的です。他にも、本人の日々の生活(睡眠時間、起床時間、余暇活動)まで配慮できればベストです。
(1)挨拶:職場に来た時の「おはようございます」、職場を出る際の「失礼します」など
(2)謝罪:ミスをしたら「すみません」と謝る。助けてもらったら「ありがとうございます」とお礼を言う
(3)敬語:同僚・上司に不快感を与えないような言葉遣い
(4)儀礼:職場内で上司・同僚とすれ違った際にお辞儀をする。同僚が帰るときに「お疲れ様」などの挨拶をする。
(5) 身だしなみ:髪型・服装・匂いで他人が不快にならない手本や見本を教える。
LDもADHDにも一定数いるのですが、小中学校時に対人トラブルで不登校や引きこもりを経験した率はASD者の方が多く、その多くの原因は集団への適応への困難さがあると言われています。社会人ASD者にもこの点で困難を抱えている方も多く、定型発達者であれば自然に身に付けている上記の指導を「できて当たり前」と捉えず一から丁寧に教える必要があり、しかもある時期だけ集中的に行えばいいのではなく、定期的にフォローすることまで含めて「合理的配慮」であり、就労の継続や定着につながるのです。
参考文献 発達障害者の就労上の困難性と具体的対策 – 梅永雄二 – 被引用数: 15 |