前回の記事で発達障害の特性には長所があると書きましたが、発達障害のある人の長所が生かせる仕事ってあるの?という疑問を持たれる方もいると思います。「ADHDはコミュニケーションを活かした営業や接客、またはアイデアを生かしたデザイナーがいい」とか「ASDは特定のことに徹底してこだわる特性を活かして研究職や技術者が向いている」といった話を聞きますが、そういう傾向はあるものの万人に当てはまるわけではありません。あくまで個人の特性・悩みを踏まえて活かせる能力を活かす方向性で考えるのがよろしいと思います。例えば以下のような職種(と必要な環境)の分類ができると思います。
特性、悩み | 向いている職種、環境 |
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興味・関心のある事柄に没入できる | 研究職、技術職 ・業務に没入しすぎてオーバーワークにならないよう注意 ・業務量を管理してくれる人、システムがある環境が◎ |
業務内容や手順の変化を負担に感じる | ルーチンワークの職種 ・日々の業務内容、量の変化が少ない ・淡々とコツコツと続けられる |
コミュニケーションに苦手意識がある | コミュニケーションが少ない職場 ・接客業、アットホームな雰囲気の職場は△ ・趣味の話題は仕事と切り分けて、社会人サークルなどで楽しむ |
書類の誤字・脱字などのミスが多い | 動きのある仕事、接客業 ・事務系の職種とは相性✕ (服薬によりコントロールできている場合には△) ・フットワークが軽い傾向→動きのある仕事は相性◎ |
ルーチンワークに飽きて転職を繰り返す | 外出の多い仕事、体を動かす仕事 ・外回りなど外出の多い仕事、動きのある仕事は相性◎ ・臨機応変な対応が得意な傾向→変化の多い環境と相性◎ |
適職を探すのに力を入れるのも大事ですが、社会で自分と異なる特性の人と一緒に働くという観点で考えると、いかに職場で上司や同僚のサポートを受けるかというのも考える必要があります。
職場で上司や同僚のサポートを受けるコツ
勤務先に発達障害があることを伝えて、特性に合わせたサポートを受けることを「合理的配慮」といいます。診断名に加えて「○○という場面(業務)では、△△といった特性により□□のように困りやすい」と実例と理由をセットで説明すると理解を得やすくなるほか、一緒に対策を考えてもらえたり、担当業務を調整してもらえたりと、働きやすくなる可能性が高いです。
対して、「診断名だけを会社に伝えた」場合は、診断名だけが独り歩きしてしまい、過剰な心配から業務を任せてもらえなくなるなど、マイナスの影響が出る可能性があります。主治医や支援者に伝え方を相談した上で伝えるようにするとよいでしょう。
ハラスメントを受けないために
残念ながら発達障害の特性がある人がいじめ等のハラスメントに遭いやすいというデータもあります。原因として次のようなことが挙げられます。
・言葉数が少なくておとなしいので、弱々しく見えてしてまう
・萎縮してしまい、対等なコミュニケーションができない
・その場に合った受け応えができず、的外れなことを言ってしまう
・空気が読めず、悪気がなくても相手を怒らせてしまう
ハラスメントの定義は、「他者に対する発言・行動等が相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたり、不利益を与えたり、脅威を与える嫌がらせやいじめ」です。そこに本人の意図は関係ありません。パワハラ、モラハラ、マタハラ、セクハラ(性的指向・性自認関連も含む)など種類は多岐にわたります。当事者がハラスメント被害に遭う原因は本人の努力不足や人間性の問題ではなく、周りの人たちの発達特性の理解が不十分によることがほとんどです。
ハラスメントに対処するためには、すぐにSOSを発信できる環境が大事です。会社のコンプライアンスや人事担当部署のハラスメント相談窓口は社内規則等を見て押さえておきましょう。少し厄介ですが社内で動いてくれない場合、労働基準監督署の他ハローワーク、障害者就業・生活支援センターなどの障害者相談窓口に相談しましょう。障害福祉サービスを(就労移行支援や就労定着支援の支援員、計画相談支援の相談支援専門員)を活用し相談できる人を作っておく事も有効です。
常習的にハラスメントを受けることになった場合は結論から言うと一刻も早く退職するべきです。「就職を期待していた家族や福祉支援者の期待を裏切るのは申し訳ない」「次もまたすぐに就職できるか不安だ」と思うかもしれませんが、残念ながら会社として社員にハラスメントの取組が不十分な組織もあります。またハラスメント取組の支持が職場に届かない・無視される等社内の統制が良くない会社もあります。改善するかしないか分からないハラスメントを我慢し心身の調子を崩してしまっては本末転倒です。職場を変えて一から人間関係を築いていくのが、最善でしょう。
職場を変えることを決意したら
法律上は2週間前に退職の意思を伝えていれば、辞めることができるとされていますが、退職の意思が固まったら、引き継ぎや有給休暇の消化の事も考えて、できるだけ早く退職届を提出しましょう。退職届を出しても、退職を拒否されたり、さらにいじめがエスカレートする場合があります。トラブルが起きた時に対処できるよう、メールの文面、スマホでの音声録音、病院の診断書などをいじめ・パワハラの証拠として保管しておきましょう。
失業保険の受給を希望する場合は、離職票を依頼します。いじめ・パワハラにあった場合は、離職票に自己都合退職と書かれていても、会社都合退職の扱いにしてもらうことで、3ヶ月の給付制限が免除されます。また、障害者手帳をお持ちの方が障害者枠で失業保険を受給すると、一般受給者に比べて受給期間が大幅に長くなります。ハローワークの窓口に離職票、写真、印鑑、通帳、マイナンバー・本人確認書類などを持参して必要な手続きを行いましょう。また、いじめ・パワハラの被害がひどい場合は、労災認定を受けられる可能性もあります。労災認定を受けると療養給付や休業補償給付などを受けることができます。