発達障害を個人の心がけや意思の力だけで乗り越えるのは困難で、医療機関の専門家の力を借りて楽になる面もあります。今回は
①ADHDの診断を受けるためにはどうすればいいか?
②治療方法としてどんなものがあるか?
を説明します。
①発達障害の診断を受けるには?
Q1.何科に行けばいい?
A1.~15歳:小児科、児童精神科、16歳~(一般)精神科・診療内科
どの病院でも発達障害以下のサイトなどで事前に調べて、電話予約してからいくのが無難です。こちらをクリック(全国の発達障害の病院・クリニック)
Q2.初診にかかるお金は?
A2.~15歳:ほとんどの自治体で「子ども医療費助成制度」があるので、1日1医療機関につき0円~上限200円などで受けられます。
16歳~:とりあえず1万円は持って行きましょう。(問診以外の診察・カウンセリング・検査もあるかもしれないので)必ず1万円かかるというわけではありません。
Q3.最初の通院で準備すべきことは?
A3.問診に備えて以下を用意します
①日常生活での困りごと。
②通知表(なければ子供の頃の様子)
③直近の健康診断結果(なければよい)
No. | 項目 | 備考 |
1 | 日常生活の困りごと | 箇条書きでOK |
2 | 通知表 | 幼稚園~小学校卒業まで。ポイントは成績ではなく通信欄です。 |
3 | 直近の健康診断結果 | 血液検査の結果があるもの |
1.日常生活の困りごと
まずなにも準備せずにその場で説明するのはおススメしません。病院の雰囲気での不安や先生との対話の緊張感で言いたかったことを思い出せないことが往々にしてあるからです。
発達障害に対応できる病院は限られているので、予約するのも一苦労なはず。長い日数を待ってやっと受けた診察で「あれを言うの忘れた」という後悔はしたくないものです。困りごとを列記するので、以下から選んで書くのもいいでしょう。
感覚過敏
発達障害に詳しくない方は「忘れ物が多いとか空気が読めないのが発達障害の特徴じゃないの?」と思うかもしれまんが、発達障害の大半の方は感覚過敏を持っています。感覚過敏から説明していくと、これに関連した日常生活や仕事の困り事も浮かびやすくなりますのでお勧めです。
聴覚過敏
①小さな物音が気になる(例:時計や冷蔵庫の作動音)
②特定の種類の物音が耳に突き刺さる(例:学校のチャイム、電話、掃除機など)
③音の遠近感を把握できない(救急車の音で場所・距離感が分からない)
④人込みや騒がしいとすぐに疲れる(学校、試合会場、駅、コンサート)
視覚過敏
①蛍光灯やPC画面のちらつきが気になる
②ブラインド越しの日光が目に突き刺さるように感じる
③人の動きのあるテレビやゲーム画面を見ていると疲れる
触覚過敏
①人に触れられることが苦手を通り越して苦痛
②首や手足といった敏感な部位のタグや縫い目が気になる
③特定の素材を好む、嫌う(天然素材を好み、化繊を嫌う)
嗅覚過敏
①香水や柔軟剤の匂いで涙が出たり気分が悪くなる
②香料の効いた食べ物の匂いが鼻腔に刺さり味が分からない
③人混みの熱気や建物内のこもった匂いで具合が悪くなる
味覚過敏
①特定の味や食材が耐えられないレベルで不快に感じる
②変色が激しい(アレルギーや宗教以外。野菜は食べない等)
ADHD系の特徴
次にADHD系の困りごとを列記します。全部当てはまるのであれば全部でも構いませんが、先生があなたに対する治療で焦点を絞り切れなくなるかもしれないので3つくらいを重点的に伝えるのもよいと思います。
①整理整頓がうまくできない
②忘れ物やミスが多い
③スケジュールの先延ばしや遅刻をしやすい
④タスク管理が苦手
⑤気が散りやすくて集中できない
ASD系の特徴
①場の状況や上下関係に無頓着
②名前を呼ばれても反応しないことがある
③相手の身振りの意味を察することが難しい
④質問の意図や発言の狙いが把握しづらい
⑤自分の体調や状態がわかりづらい
⑥予定が急変するとパニックを起こす
よく「コミュニケーションがうまく取れない」と言う人がいますが、①~④のように具体的に説明した方がいいです。あと⑤は先述した感覚過敏にも関連します。⑥はASDならではのルーティンを崩されたくないこだわり面です。
2.通知表(幼稚園~小学校卒業)
通知表は大人の発達障害の診断に関する重要な資料です。というのも発達障害はDSM-5というアメリカ精神医学会によって作成されたマニュアルによって診断されることが多く*、そこでは発症年齢の上限が12歳と定義されているのです。
よって大人の発達障害の場合は、12歳までの通知表に書かれている先生や両親のコメントを診断の客観的根拠となるのです。手元にない人はご両親に聞いてみましょう。
もしあなたがADHDの親御さんであれば(将来発症するかもしれない)お子さんのために大切に保管しておきましょう。ちなみに通知表は障害年金を申請するときの資料づくりにも役立ちます。
*DSM-5の他にICD-10という世界保健機関(WHO)の定める診断基準もありますが、日本ではあまり使われません。
3.直近の健康診断結果(血液検査のあるもの)
必須ではないです。発達障害に似た他の病気の診断の根拠になるため、もしあれば持っていくといいでしょう。診察時に発達障害に似た他の病気に該当するかどうかの検査として①血液・尿検査、②MRI、③脳波測定、を実施することがあります。
自分の場合をお話すると、①血液検査は健康診断結果のコピーを渡して済みました。②MRIはありました。料金も自己負担3割でも3000円くらいかかりました。③脳波測定は未経験です。
4.その他(体験談)
病院の方針や体制にもよりますが、私がやったことがあるのが
①本診察の前の予備診察(大学病院:主治医の診察を受ける前に幼少期の性格やこれまでの困り事などを質問されました)
②臨床心理士によるカウンセリング(クリニック:病院に来た経過や現在の困り事について)
診察を予約したときにどんな項目があって予算がいくらかかるか聞いてください。
検査~検査結果までの日数(体験談)
病院によるのでなんとも言えないところです。初診でADHDの診断が出たという人もいれば、数回の問診と数種類のテストの結果で5回目の診察で診断を受けたという人もいます。自分がクリニックでADHDグレーゾーンの診断を受けたときは、
1回目:カウンセラー(臨床心理士)に現在の困りごとを話し終了。(30分)
2回目:医師が問診をして、成人向け発達障害検査WAIS3(ウェイススリーと読む)の日程を決めて終了。(10分くらい)
3回目:テスト専門の臨床心理士と1対1でWAIS3を受けて終了。(2時間15分)
4回目:3回目の臨床心理士からWAIS3の結果(得意な認知と苦手な認知の説明)を聞いて終了(15分)
5回目:医師からADHDと診断を受けて、以降診察および投薬治療を勧められる(10分)→実際はその2か月後に投薬開始
という感じでした。WAIS3は知能テストのようなものです(というか実際にIQが出されるので知能テストでもある)がペーパーテストだけではなく、積み木(指示通りの形を作る)、数唱(4桁の数字を検査者が読み、患者は逆から数字を読む)、絵の読解(チェーンのない自転車の絵を見せられ、「この絵に欠けているものは?」と質問される)みたいな感じでした。発達障害の診断を受ける人は得意なテストと苦手なテストの点数の差が定型発達者と比べて大きくなります。
治療方法ってどんなのがあるの?
あえて治療としましたが、ADHDを含む発達障害は脳の特性なので、病気ではなく「治る」ものでも、「治す」ものでもありません。生きやすさや自己肯定感を上げる「支援」のためです。でも多くの医師や学者は治療というので私個人の言葉のこだわりだと思ってくださって結構です。
ADHDの場合の治療は主に3つです。
1.環境調整
職場や学校や家庭で、ADHDの症状が出にくい環境をつくります。
遅刻・締切遅れの多い、時間の管理が苦手な人には、「何をどのような手順でおこなうのか」「どうなったら完了とするのか」「何をして待てばいいのか」などを当事者に示してから課題 をおこなうようにします。
いつも何かを探すほど整理整頓が苦手な、空間の管理が苦手な人には、「机の上を一定の基準で整理する」「大事なものは見えやすい場所を決めて置く」などを教えて実施してもらいます。
2.薬物療法
薬物療法の目的は、発達障害者が自らの行動を統制するスキルや他人との協調性を身につけやすくすることです。結果として本人の自尊感情を高めることにつながります。薬の種類をいうと中枢神経刺激剤と非刺激剤の2種類の薬剤を使います。代表的な治療薬は以下の3つです。
薬名 | 概要 | メリット | デメリット |
コンサータ | 全てに効く | 不注意・多動・衝動に効果あり。即効性感じ易い。 | 依存性強い。耐性付きやすい。睡眠障害・食欲不振・動悸・吐き気 |
ストラテラ(ジェネリック名アトモキセチン) | 劣化版コンサータ | 依存性なくコンサータと同様の効果あり。耐性も付きにくい | 効き目感じにくい。睡眠障害・食欲不振・動悸・吐き気 |
インチュニブ | 元は高血圧の薬 | 多動と衝動に効果大 | 不注意には効き目弱い(ない?) |
体験談(個人の感想です)
メリット | ①原因不明の不安が消える(目覚めたらすぐに活動できる)、②興味のないことにも集中できる(後回しが減る)、③気持ちの落ち着きが出る(テンパりにくくなる、のめり込みすぎず振り返りができる) |
デメリット | ①吐き気・動悸(貧血のような感じ)、②寝られない(夜の服用はNG)、③中途半端に飲むとかえって酷くなる ④効き目には限界がある上、その他の発達障害には効果なし 例 ASD(こだわりの強さ)やLD(アファンタジアのような映像記憶困難) |
メリット
服薬後は気持ちがニュートラルになり原因不明の不安が消えたというのが大きいです。服薬以前は「なぜか分からないけど」不安が先行しやすく、鬱でもないのですが朝目覚めると耐えきれないくらいの不安が高まり、酷い時はそれが理由で会社を休んだりしたことがありました。
デメリット
①吐き気・動悸
飲み始めは、今まで感じたことのない不快さがありました。味のせいかと思っていましたが、飲んでしばらくしたあとも続き、その状態で電車に乗っていると気分の悪さから汗が吹き出し、その後貧血のような状態で平衡感覚を保てず立ち上がれないことがありました。医師に相談して吐き気止めを処方してもらい食後に飲んだ方がいいでしょう。
②寝られない
最初に処方されたとき、医師に朝と晩に同じ量を飲むように言われましたが、晩に飲むとその後寝るときに頭の芯から冴える感じが続き不眠になりました。医師に相談して今は夜の分も含めて朝に全部飲んでいます。ただし人によっては飲むと眠くなるという私と真逆な反応をする人がいるので、自分の効果を確かめてからにしてもいいと思います。
③中途半端に飲むとかえって酷くなる
先述した吐き気が嫌で、自己判断で飲んだり飲まなかったりしたことがあるのですが、ただこういう飲み方をすると血中濃度が安定せず、飲まないときの不安や焦りがより酷くなりました。処方された量をしっかり飲みきることで改善されました。
④効き目には限界がある上、その他の発達障害には効果なし
服薬すると適度な集中と心の平静さが保たれています。とはいえうっかりミスが減ることはありません。表現が難しいのですが過集中や注意力の散漫は改善されるが、集中の質が良くなるわけではないといった感じです。ミスが減ったというよりは、ノーチェックで進めていた以前よりはチェックをしようという気持ちになった、くらいの感じです。
以上が私の感想ですが、日本の医師は子供はもちろん大人の発達障害者であっても「軽症の場合は、環境調整のみで十分に対応可。安易な薬物療法はするべきではない」と考える方が多いと感じます。逆にアメリカでは幼少期から積極的に薬物療法を使うそうです。(製薬会社の思惑もあると言われていますが)
3.ペアレントトレーニング(略称ペアトレ)
ペアトレは、環境調整や子どもへの肯定的な働きかけを学び、保護者や養育者の関わり方や心理的なストレスの改善、子どもの適切な行動の促進と不適切な行動の改善を目的としたプログラムです。
また他の親との出会い、自分の子育ての悩みを語ったり、それぞれの子どもに応じた具体的なかかわり方や環境調整の工夫を学んだり、子どもとともに成長していく場を提供します。
具体的には、行動理論を理論的背景としてプログラムが構成されており、行動の理解、ほめ方、環境調整、不適切な行動への対応等について保護者がグループワークやホームワークを通して実践をするものです。
ペアレント・トレーニングをきっかけとして地域の親の会やペアレント・メンター(発達障害のある子どもを育てた経験のある親で、他の親の相談相手となれる人)による支援に繋がっていくことで、ライフステージを通した地域での親支援が期待されています。
ペアトレとは別に、ペアレントプログラムというのがあります。これは、子どもの行動修正までは目指さず「保護者の認知を肯定的に修正する」に焦点を当てた簡易的なプログラムです。(子供の発達障害を正しく認知できない親向けのプログラム)
最後に
情報はアップデートし書き方も遂行を重ねました。今後も機会があればさらにこのページに情報を追加してみようかなと思っています。
最後の復習ですが
1.「発達障害の診察可能な病院」を調べる→リンク先へジャンプ
2.「1万円」と「通知表」「困ったことリスト」等を用意する→リンク先へジャンプ
3. 病院へGO
4. その後薬を勧められたらこれを思い出して検討する→リンク先へジャンプ
良記事ありがとうございます!
Ryoさん
どういたしまして。今後も記事を書く上で励みになります。